SCM鋼はどんな性質?一般的な特徴や他の鋼材との比較も紹介
SCM鋼とは?
SCM鋼は、JIS G 4053に規定されるクロムモリブデン鋼(Cr-Mo鋼)の一種で、機械構造用合金鋼に分類されます。「SCM」は、Steel Carbon Molybdenum(炭素・モリブデン鋼)の略称であり、主に機械部品や自動車部品など、高い強度・耐摩耗性・靭性が求められる用途に使用されます。
SCM鋼の代表的な種類には、SCM415、SCM435、SCM440などがあります。それぞれ炭素(C)含有量が異なり、機械的特性や用途が異なります。
SCM鋼の化学成分
SCM鋼には、炭素(C)・クロム(Cr)・モリブデン(Mo)が含まれており、以下のような役割を果たします。
- クロム(Cr):焼入れ性を向上させ、耐摩耗性・耐食性を向上させる。
- モリブデン(Mo):高温強度・靭性を向上させ、焼戻し脆性を防ぐ。
鋼種 | 炭素(C) | ケイ素(Si) | マンガン(Mn) | リン(P) | 硫黄(S) | クロム(Cr) | モリブデン(Mo) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
SCM415 | 0.13~0.18 | 0.15~0.35 | 0.60~0.90 | ≦0.030 | ≦0.030 | 0.90~1.20 | 0.15~0.30 |
SCM435 | 0.30~0.40 | 0.15~0.35 | 0.60~0.90 | ≦0.030 | ≦0.030 | 0.90~1.20 | 0.15~0.30 |
SCM440 | 0.38~0.43 | 0.15~0.35 | 0.60~0.90 | ≦0.030 | ≦0.030 | 0.90~1.20 | 0.15~0.30 |
SCM鋼の種類によって炭素量が異なり、それに応じて焼入れ性・強度・靭性が変化します。
SCM鋼の機械的特性
SCM鋼は、炭素鋼(S45Cなど)よりも高強度・高靭性で、焼入れ性が良好です。以下に、SCM435とSCM440の機械的性質を示します。
鋼種 | 引張強さ(MPa) | 降伏強さ(MPa) | 伸び(%) | 硬度(HB) |
---|---|---|---|---|
SCM435 | 930以上 | 785以上 | 12以上 | 217以下 |
SCM440 | 980以上 | 835以上 | 10以上 | 255以下 |
SCM440はSCM435よりも炭素量が多いため、より強度が高く、焼入れ・焼戻しによって硬さを調整しやすいのが特徴です。
SCM鋼の特徴
高い強度と耐摩耗性
SCM鋼は、クロム(Cr)とモリブデン(Mo)の効果により、通常の炭素鋼(S45Cなど)よりも高い強度と耐摩耗性を持っています。特に、焼入れ・焼戻しを施すことで、高強度かつ靭性のある材料として使用できます。
優れた焼入れ性
SCM鋼は焼入れしやすく、硬化層の深さが深いため、大型部品にも適用可能です。特に、SCM415は浸炭焼入れ用、SCM435・SCM440は高強度部品向けに使用されます。
高い耐熱性
モリブデン(Mo)の添加により、焼戻し脆性が抑制され、高温環境でも強度を維持しやすいです。そのため、エンジン部品や航空機部品にも使用されます。
加工性と溶接性
- SCM415(低炭素):溶接性が良好で、機械加工もしやすい。
- SCM435・SCM440(中炭素):強度が高いが、溶接時には予熱・後熱処理が必要。
SCM鋼の用途
SCM鋼は、自動車・航空機・機械・建設など、さまざまな分野で使用されています。
用途 | 使用鋼種 |
---|---|
自動車部品(ギア・シャフト・ボルト) | SCM435, SCM440 |
航空機部品(エンジン部品・高強度ボルト) | SCM440 |
機械部品(クランクシャフト・ピニオンギア) | SCM415, SCM435 |
産業機械(プレス金型・高圧バルブ) | SCM440 |
建設機械(クレーン・ショベル部品) | SCM435, SCM440 |
特に、SCM440は「ボルト・ナットの高強度版」として広く使用され、自動車や建設機械の部品に欠かせません。
SCM鋼の熱処理
SCM鋼は、熱処理によって特性を調整できるため、以下のような処理が施されます。
熱処理方法 | 目的 | 適用鋼種 |
---|---|---|
焼入れ(850~900℃) | 硬度と耐摩耗性を向上 | SCM435, SCM440 |
焼戻し(500~700℃) | 靭性を向上し、割れを防ぐ | SCM435, SCM440 |
浸炭焼入れ(900~950℃) | 表面硬度を高め、耐摩耗性を向上 | SCM415 |
焼ならし(850~900℃) | 内部組織を均一化 | SCM435, SCM440 |
SCM415は浸炭焼入れにより表面を硬化させる一方、SCM435やSCM440は通常の焼入れ・焼戻しで高強度化されます。
SCM440と他の鋼材の比較
材料 | 主な用途 | 特徴 |
---|---|---|
SCM440 | クランクシャフト、ボルト、ギア | 高強度・高耐摩耗性 |
SS400 | 建築部材、フレーム | 安価・加工しやすい |
S45C | シャフト、歯車、軸 | 強度・耐摩耗性が高い |
SUS304 | 配管、食品機器、医療器具 | 耐食性に優れる |
- SCM440は、強度・靭性・耐熱性が求められる部品(クランクシャフト・ボルトなど)に使用されます。
- S45Cは比較的強度の高い部品(シャフト・歯車など)に使用されます。
- SS400は安価で加工しやすく、建築構造材などに多用されます。
- SUS304は耐食性を重視する設備(食品機器、医療器具)に使用されます。
まとめ
SCM鋼(クロムモリブデン鋼)は、高強度・高靭性・優れた焼入れ性を持つ機械構造用合金鋼です。SCM415(低炭素)は浸炭焼入れ用、SCM435・SCM440(中炭素)は高強度部品向けに使用されます。特に、自動車・航空機・建設機械などの分野で、ギア・シャフト・ボルトなどの重要部品に幅広く活用されています。
適切な熱処理を施すことで、強度・耐摩耗性・靭性を最適化できるため、用途に応じた加工が求められる鋼材です。