SPHCとは?製造プロセス・特徴や規格・用途について紹介
SPHCの概要
SPHCは、日本産業規格(JIS)における熱間圧延軟鋼板の鋼種の一つであり、JIS G 3131「熱間圧延軟鋼板および鋼帯」に規定されています。「SPHC」は「Steel Plate Hot rolled Commercial」の略であり、主に一般的なプレス加工や成形加工に適した材料として広く使用されています。
SPHCの製造は、原料処理から始まり、高炉・転炉での製鉄、連続鋳造によるスラブの作成、熱間圧延による鋼板の成形という一連のプロセスを経て行われます。熱間圧延により、比較的低コストで加工性の高い鋼板が得られ、幅広い用途に使用されます。
また、酸洗処理や冷間圧延などの追加工程を加えることで、より高度な表面品質や精度を求めることも可能です。SPHCの製造プロセスを理解することで、その特性を活かした最適な使用方法を選択することができます。
SPHCの製造工程について
SPHC(熱間圧延軟鋼板)は、鉄鉱石やスクラップを原料とし、高炉や電気炉で溶解した後、連続鋳造を経てスラブを作成し、最終的に熱間圧延で鋼板に仕上げられます。本章では、SPHCの製造工程を詳細に解説します。
原料処理
SPHCの原料は、主に鉄鉱石、石炭(コークス)、およびスクラップ(鉄くず)です。これらは製鉄所で処理され、鉄鋼材料の基盤となります。
- 鉄鉱石: 主要な成分は酸化鉄(Fe₂O₃、Fe₃O₄)であり、高炉で還元されます。
- コークス: 高炉で鉄鉱石を還元するための還元剤および燃料として使用されます。
- 石灰石: スラグ(不純物)を除去するためのフラックス材として用いられます。
- スクラップ: 鉄のリサイクル材料として利用され、製造コストの低減や資源の有効活用に寄与します。
製鉄(銑鉄の製造)
高炉を用いて鉄鉱石を還元し、炭素を多く含む銑鉄(Pig Iron)を生成します。
- 高炉内での還元反応
- 鉄鉱石(酸化鉄)にコークスを加えて加熱すると、一酸化炭素(CO)が発生し、鉄鉱石が還元されて鉄(Fe)が生成されます。
- これにより、溶融した鉄(銑鉄)が得られ、炭素含有量は約4%と高い状態です。
- スラグの分離
- 石灰石を加えることで、鉄以外の不純物(シリカ、リンなど)がスラグとして分離されます。
製鋼(炭素含有量の調整)
高炉で得られた銑鉄を転炉(LD転炉など)や電気炉で処理し、炭素含有量を減らして鋼を製造します。
- 転炉法
- 銑鉄に酸素を吹き込み、炭素を燃焼させて除去することで、炭素含有量の少ない鋼を作ります。
- SPHCのような低炭素鋼を作る場合、最適な炭素含有量(0.15%以下)になるよう調整します。
- 電気炉法
- スクラップを溶融し、不純物を取り除くことで鋼を作ります。再生資源を活用できるため、環境負荷が低いのが特徴です。
- 合金元素の調整
- SPHCでは、主にマンガン(Mn)が添加され、成分の均一化が行われます。
- リン(P)や硫黄(S)の含有量は低く抑えられます。
連続鋳造(スラブの製造)
精錬された鋼を連続鋳造機(Continuous Casting Machine, CCM)でスラブ(板状の鋼片)に成形します。
- 鋳型(モールド)への注入
- 液体状の鋼を冷却された鋳型に流し込み、徐々に固化させながら引き出します。
- これにより、連続的にスラブを成形できます。
- スラブの切断
- 必要なサイズに合わせてスラブを切断し、次の圧延工程へ送ります。
熱間圧延(ホットロール加工)
SPHCの最大の特徴である「熱間圧延(Hot Rolling)」は、鋼板の厚さを調整し、最終的な形状に加工する工程です。
- スラブの加熱
- スラブを約1200℃まで加熱し、圧延しやすい状態にします。
- 粗圧延(Rough Rolling)
- 加熱したスラブを圧延機で薄く延ばしながら、幅と厚さを調整します。
- 初期段階ではまだ厚みがあり、粗い表面を持っています。
- 仕上げ圧延(Finish Rolling)
- さらに圧延を繰り返し、最終的な厚さ(1.2mm~14mm程度)に成形します。
- この段階でSPHCの寸法精度が決まります。
- 冷却(ランアウトテーブル)
- 圧延された鋼板を冷却しながら、所定の機械的特性を確保します。
- 空冷または水冷による冷却が行われます。
- コイル巻き取り(Coiling)
- 仕上げ圧延された鋼板は、大きなコイル状に巻かれて保管され、出荷されます。
SPHCの表面処理
SPHCは熱間圧延の過程で酸化スケール(酸化鉄)が表面に付着しているため、用途によっては追加の表面処理が施されます。
酸洗処理(Pickling)
SPHCの表面に付着した酸化スケールを塩酸や硫酸などの酸溶液で除去し、滑らかな表面にします。
- 酸洗処理されたものは「SPHC-P」と表記されることがあり、後工程の加工や塗装がしやすくなります。
皮膜処理
- 防錆目的で、リン酸塩処理や油塗布が行われることがあります。
冷間圧延
- SPHCをさらに加工し、表面品質を向上させた鋼板がSPCC(冷間圧延鋼板)として販売されます。

化学成分と機械的性質
SPHCは、低炭素鋼に分類され、炭素(C)やマンガン(Mn)の含有量が比較的低いのが特徴です。以下に、JIS G 3131に規定されるSPHCの代表的な化学成分と機械的性質を示します。
化学成分(代表値)(質量%)
元素 | C(炭素) | Mn(マンガン) | P(リン) | S(硫黄) |
---|---|---|---|---|
最大値 | 0.15 | 0.60 | 0.050 | 0.050 |
SPHCは、低炭素含有量であるため、溶接性や加工性に優れていますが、高強度を求める用途には適しません。
機械的性質(代表値)
項目 | 降伏点(MPa) | 引張強さ(MPa) | 伸び(%) |
---|---|---|---|
SPHC | 245以上 | 270~410 | 30以上(t≦1.6mm) |
SPHCの降伏点と引張強さは一般的な軟鋼と同程度であり、特にプレス加工や絞り加工を必要とする製品に向いています。
SPHCの特徴と利点
SPHCは熱間圧延工程で製造されるため、以下のような特徴を持っています。
- 優れた加工性
- 低炭素鋼であるため、曲げや絞り加工が容易であり、プレス加工にも適しています。
- 比較的低コスト
- 製造プロセスがシンプルであり、大量生産が可能なため、コストパフォーマンスが高い。
- 溶接性が良好
- 炭素含有量が低いため、溶接時の硬化が抑えられ、溶接加工が容易。
- スケール(酸化皮膜)が付着している
- 熱間圧延により、表面に酸化鉄スケールが付着しているため、外観や寸法精度を重視する用途には向かない。
- 強度が低め
- 高強度を必要とする構造物には適しておらず、強度を求める場合は冷間圧延鋼板(SPCC)や高張力鋼(高強度鋼)が選択されることが多い。
SPHCの用途
SPHCは、その特性を活かし、さまざまな分野で使用されています。代表的な用途を以下に紹介します。
(1) 自動車産業
SPHCは自動車部品の一部に使用されることがあります。特に、フレームや補強材など、強度がそれほど必要ではないが、加工性が求められる部品に適しています。
(2) 建設・建築業界
建築材料として、鋼管、鋼板、鋼製ドラム、屋根材、建築部品などに用いられます。特に、構造材の一部や屋根の下地材など、溶接や加工が容易な用途に適しています。
(3) 家電・電機製品
家電製品のフレームや筐体の一部として使用されることがあります。例えば、エアコンや洗濯機の内部フレームなどに採用されることがあります。
(4) 一般的なプレス加工品
SPHCは、比較的低コストで大きな板厚の材料が得られるため、農業機械、産業機械、電動工具のカバー類、金属ケース、ドラム缶、コンテナなどのプレス加工品にも使われます。
SPHCと他の鋼種の比較
SPHCとよく比較される鋼種として、冷間圧延鋼板(SPCC)、高強度鋼(高張力鋼)があります。
鋼種 | 製造方法 | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|---|
SPHC | 熱間圧延 | 加工性・溶接性が良いがスケールが付着 | 自動車、建築、プレス加工品 |
SPCC | 冷間圧延 | 表面が滑らかで寸法精度が高い | 精密部品、家電、家具 |
高張力鋼 | 熱間圧延・冷間圧延 | 高強度・軽量 | 自動車のフレーム、構造材 |
SPHCは加工しやすく、安価なため、特に強度を求めない場合に適した材料です。一方、寸法精度や表面品質が重要な場合には、SPCCが選ばれます。また、強度を求める場合は高張力鋼が適用されます。
SPHCの加工方法
SPHCは、さまざまな加工方法に適しています。
プレス加工
SPHCは軟鋼のため、曲げ加工や深絞り加工が可能です。例えば、自動車のフレームやドラム缶の成形に利用されます。
溶接
SPHCは溶接性が良好なため、アーク溶接やスポット溶接に適しています。建築や製造業での接合に活用されます。

切削加工
通常、SPHCは鋼板として供給されるため、レーザー切断やせん断加工で切断されることが多いですが、必要に応じて機械加工が施されることもあります。

表面処理
SPHCは熱間圧延時に酸化スケールが付着しているため、塗装やメッキの前に酸洗いやショットブラスト処理が必要です。これにより、耐食性や美観を向上させることができます。
まとめ
SPHCは、JIS G 3131で規定される熱間圧延軟鋼板の一種であり、加工性や溶接性に優れた一般的な鋼材です。低コストで広範囲の用途に適用され、自動車、建築、プレス加工品、家電製品などさまざまな分野で使用されています。
ただし、表面品質や寸法精度が求められる場合はSPCC、高強度が必要な場合は高張力鋼が選ばれることが多く、用途に応じた鋼種選定が重要です。