SPCCとは?製造プロセス・特徴や規格・用途について紹介
SPCC(冷間圧延鋼板)とは
SPCCとは、JIS規格(日本工業規格)G 3141に規定されている冷間圧延鋼板の一種であり、一般的に使用される炭素鋼板の一つです。SPCCは「Steel Plate Cold Commercial」の略称で、主にプレス加工や曲げ加工を目的として使用されます。
SPCCの製造プロセス
SPCCは熱間圧延鋼板(ホットコイル)を基材として、以下の工程を経て製造されます。
熱間圧延(Hot Rolling)
鋼を高温(通常1000℃以上)で圧延し、所定の厚さに成形します。この段階では、鋼材の表面に酸化スケール(黒皮)が形成されます。
酸洗(Pickling)
熱間圧延後、鋼板表面の酸化スケールを塩酸などの酸で除去します。これにより、滑らかで均一な表面を得ることができます。
冷間圧延(Cold Rolling)
酸洗処理された鋼板を室温で再圧延し、希望する厚さと表面仕上げを得ます。この工程により、寸法精度の向上、機械的性質の改善、表面品質の向上が可能となります。
焼鈍(Annealing)
冷間圧延後の鋼板は硬化して脆くなるため、焼鈍(アニール)処理を行い、再結晶化させて延性を回復させます。これにより、加工性が向上し、用途が広がります。
仕上げ圧延(Skin Pass Rolling)
焼鈍後の鋼板に軽い圧延を加えることで、表面の平滑性を向上させ、機械的性質を調整します。
仕上げ・検査・出荷
最終的に、鋼板の厚さ・幅・表面品質などを検査し、合格したものが市場に供給されます。
SPCCの特性
SPCCは、以下のような特性を持っています。
高い加工性
冷間圧延鋼板は延性が高く、曲げ加工やプレス加工に適しています。特に、焼鈍処理を施したSPCC材は、より柔軟な成形が可能です。
優れた表面品質
冷間圧延鋼板は、滑らかで均一な表面仕上げを持ち、塗装やメッキ加工に適しています。
一定の機械的強度
熱間圧延鋼板に比べ、冷間圧延鋼板は引張強度や硬度が向上しています。ただし、焼鈍処理により強度が低下する場合もあります。
均一な寸法精度
冷間圧延プロセスにより、高い寸法精度が確保されており、製造誤差が少ないため、精密な加工が求められる用途に適しています。
SPCCの用途
SPCCは、その優れた加工性と表面品質のため、多くの産業分野で使用されています。
自動車産業
- 車体の外板(フェンダー、ドアパネルなど)
- 内部フレームや補強部品
家電製品
- 冷蔵庫、洗濯機、エアコンの外装パネル
- 内部のシャーシやフレーム
建築材料
- 軽量鉄骨材
- 建築用パネルや仕切り
一般機械部品
- 産業機械のカバーやフレーム
- 各種筐体やケース
家具・オフィス用品
- 金属製キャビネット、デスク、ラックなど
SPCCの種類と規格
SPCC(冷間圧延鋼板)の板厚は、JIS G 3141(冷間圧延鋼板および鋼帯)に基づいて定められています。一般的なSPCCの板厚範囲は 0.25mm~3.2mm です。
SPCCの標準的な板厚
通常、市場で流通しているSPCCの板厚は以下の範囲に分類されます。
- 薄板(シート状):0.25mm~3.2mm
- 鋼帯(コイル):0.25mm~3.2mm
JIS G 3141では、以下のような代表的な板厚がよく使われます。
板厚(mm) | 許容差(mm)(圧延材の幅による) |
---|---|
0.25~0.40 | ±0.03 ~ ±0.04 |
0.40~0.60 | ±0.04 ~ ±0.05 |
0.60~1.00 | ±0.05 ~ ±0.06 |
1.00~1.60 | ±0.06 ~ ±0.08 |
1.60~2.50 | ±0.08 ~ ±0.10 |
2.50~3.20 | ±0.10 ~ ±0.12 |
※ 許容差は鋼板の幅やメーカー仕様によって異なる場合があります。
3.2mm以上の板厚はあるか?
冷間圧延の工程上、SPCCの板厚は 最大3.2mm が一般的です。それ以上の厚さ(4.5mmや6mmなど)は 熱間圧延鋼板(SPHCなど) が使用されるのが一般的です。
もし3.2mm以上の厚みが必要な場合は、SPHC(熱間圧延鋼板)を使用し、追加加工(酸洗や冷間圧延)を施してSPCC相当の表面品質や精度を得ることもあります。
JIS G 3141の分類
JIS規格では、冷間圧延鋼板の品質を以下のように分類しています。
種類 | 特徴 |
---|---|
SPCC | 一般的な冷間圧延鋼板 |
SPCD | より深絞り加工に適した材料 |
SPCE | 非常に深い絞り加工向けの材料 |
SPCF/SPCG | 高度な深絞り特性を持つ材料 |

表面仕上げの違い
SPCCの表面仕上げには、以下のような種類があります。
- SPCC-SB(Skin Pass Bright): 軽く圧延して光沢を出したもの。
- SPCC-SD(Skin Pass Dull): マットな仕上げで、塗装前処理に適したもの。
- SPCC-1B(Bright Finish): 鏡面仕上げで、高い光沢を持つもの。
SPCCの強度と耐久性
SPCCの引張強度や降伏点についても理解しておくことが重要です。
引張強度と降伏点
SPCCの引張強度は約270~410MPaの範囲にあり、降伏点は130~240MPa程度です。これにより、一般的な加工用途に適した強度を確保しています。
耐摩耗性
SPCCは硬度がそれほど高くないため、強い摩擦が加わる環境では摩耗が進みやすいです。
SPCCの注意点
防錆対策
冷間圧延鋼板は、表面に防錆処理が施されていないため、長期間の露出で錆が発生しやすいです。
加工時のひずみ
加工性が良い一方で、過度な曲げや絞り加工を行うと、ひずみや割れが発生する可能性があります。
耐衝撃性の限界
冷間圧延鋼板は硬度が増すため、衝撃を受けた際に割れやすい傾向があります。
まとめ
SPCCは、その特性を活かして多くの分野で使用されており、用途に応じた適切な選択が重要です。適切な防錆処理や加工方法を採用することで、より長期間にわたって使用することができます。