ねずみ鋳鉄とは?特徴・用途・メリットをわかりやすく解説
ねずみ鋳鉄とは?
ねずみ鋳鉄(正式名称:灰色鋳鉄、英語:gray cast iron)は、炭素を多く含む鋳鉄の一種で、破断面が灰色(ねずみ色)をしていることからその名が付けられています。炭素が主に片状黒鉛(グラファイト)として析出しているのが特徴で、優れた加工性・鋳造性・コストパフォーマンスを備えており、幅広い工業製品に使用されています。
基本的な構成と組織
ねずみ鋳鉄は、鉄(Fe)を主成分とし、炭素(C)のほかにケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)などを含みます。
炭素含有量は2.5~4.0 %、ケイ素は1.0~3.0 %程度です。
この炭素は、鋼とは異なり黒鉛(グラファイト)の形で析出しており、その形状は片状(フレーク状)であるため、破断面が灰色に見えます。これが「ねずみ鋳鉄」の名前の由来です。
金属基(マトリックス)は、フェライト、パーライト、またはその混合組織で構成されており、黒鉛との組み合わせによって、ねずみ鋳鉄の機械的特性が決まります。
特徴と利点
ねずみ鋳鉄は、以下のような特性を持ちます。
優れた鋳造性
流動性が高く、複雑な形状の鋳物も容易に成形できます。鋳造中の収縮も少なく、寸法精度が安定します。

良好な機械加工性
片状黒鉛が切削工具の摩耗を抑え、切粉の排出性も良いため、旋盤やフライスなどの加工に適しています。


高い減衰性(ダンピング性)
黒鉛のフレーク構造が振動エネルギーを吸収し、工作機械のベッドやフレームなど、振動を抑えたい部位に最適です。
耐摩耗性
黒鉛の自己潤滑作用により、摺動部品の摩耗を軽減します。
コストパフォーマンスの良さ
原料や製造工程が比較的安価なため、大量生産に向いたコスト効率の良い材料です。
欠点
一方で、ねずみ鋳鉄には以下のような短所もあります。
靭性の低さ
片状黒鉛が割れの起点となるため、衝撃に弱く、脆性破壊が起こりやすいです。
引張強さの低さ
鋼材と比べると引張強さが劣り、高応力がかかる構造部品には不向きです。
溶接の難しさ
黒鉛の影響で割れが発生しやすく、溶接には特殊な前処理・後処理が必要です。一般的な用途では溶接は避けられます。
種類(JIS規格)
日本産業規格(JIS G5501)では、ねずみ鋳鉄は「FC+数字」の形式で分類され、数字は引張強さ(N/mm²またはMPa)の最小値を表します。
例:
- FC150:引張強さ 150 MPa
- FC200:引張強さ 200 MPa
- FC250:引張強さ 250 MPa
- FC300:引張強さ 300 MPa
数値が大きくなるほど強度は高くなりますが、一般的に靭性や加工性は低下します。
用途
ねずみ鋳鉄は、特性を活かして以下のような分野で使用されています。
機械分野
- 工作機械のベッド・フレーム(振動吸収性)
- 歯車、プーリー、滑り軸受
- エンジンブロック、シリンダーヘッド
- ブレーキディスク
建築・土木分野
- マンホールの蓋
- 排水用パイプ
- 橋脚の基礎部材
家庭用・インフラ
- ストーブ、暖炉(耐熱性・加工性)
- 水道部品(耐久性・経済性)
大量生産が必要な場面で、コストと性能のバランスに優れた材料として重宝されています。
他の鋳鉄との比較
他の代表的な鋳鉄材料と比較すると、以下の通りです。
種類 | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|
ねずみ鋳鉄 | 加工性・鋳造性に優れるが、靭性・強度はやや低い | 工作機械、マンホール蓋、エンジン部品 |
ダクタイル鋳鉄 | 球状黒鉛により靭性・強度が高く、溶接性も良好 | 配管、構造部材、高応力部品 |
可鍛鋳鉄 | 焼きなましにより靭性が向上 | 高衝撃部品、小型機械部品 |
白鋳鉄 | 黒鉛がなく硬いが脆い、耐摩耗性に優れる | ローラー、耐摩耗部品 |

最近の動向と将来性
近年では、以下のような技術的進展により、ねずみ鋳鉄の利用範囲が広がっています。
- 高強度化の研究
- 表面処理・コーティング技術の向上
- 3Dプリンターによる鋳造模型の製作
- CAE解析を活用した最適設計
さらに、省エネルギー化や環境配慮の観点から、ねずみ鋳鉄はリサイクル材としての評価も高まっており、スクラップの再利用によって持続可能な素材として注目されています。
まとめ
ねずみ鋳鉄は、古くから機械・建築分野を支えてきた基本素材です。片状黒鉛の構造により、振動吸収性や加工性において他の材料にはない優れた特性を持ちます。
一方で、靭性や強度には限界があり、使用には設計上の配慮が必要です。しかし、その特性を理解し、適切な用途に選定すれば、今後も持続可能かつ実用的な素材として長く活用されていくことでしょう。