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幾何公差とは?役割や活用法についても解説

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幾何公差(Geometric Dimensioning and Tolerancing, GD&T)は、機械部品の形状や位置の精度を管理するための手法です。通常の寸法公差では、部品の長さや幅、高さなどの直線寸法の許容範囲を指定しますが、幾何公差は、形状の歪みや位置のズレを考慮した精度管理を行います。これにより、部品の機能を確保しながら、製造の自由度を向上させ、コストを抑えることが可能になります。

幾何公差の役割

幾何公差は、以下のような目的で活用されます。

  • 部品の機能確保
    • 部品が設計どおりに機能するための最低限の精度を保証する。
    • 例えば、軸と穴の組み合わせでは、穴が少し楕円形になっていても、所定の範囲内ならば問題なく組み立てられるように公差を設定できる。
  • 製造の自由度向上とコスト削減
    • 厳しい寸法公差を設定すると、製造コストが高くなる。
    • 幾何公差を適用することで、機能に影響を与えない範囲で公差を広げることができ、結果的に製造の難易度を下げられる。
  • 測定と品質管理の向上
    • 幾何公差を明確に定義することで、検査時の基準が統一される。
    • 例えば、位置公差を指定すれば、測定時に基準となるデータム(基準面・基準軸)を決めて評価できる。

幾何公差の種類

幾何公差は、大きく分けて以下の5つのカテゴリに分類されます。

形状公差(Form Tolerance)

形状自体の精度を管理する公差で、以下の種類があります。

  • 真直度(Straightness):線や軸がどれだけ真っ直ぐであるかを規定。
  • 平面度(Flatness):面がどれだけ平らであるかを規定。
  • 円筒度(Cylindricity):円筒の形状がどれだけ正確であるかを規定。
  • 円周度(Circularity):円の形状がどれだけ真円に近いかを規定。

姿勢公差(Orientation Tolerance)

部品の方向に関する誤差を管理する公差で、以下の種類があります。

  • 平行度(Parallelism):2つの面や軸がどれだけ平行であるかを規定。
  • 直角度(Perpendicularity):面や軸が直角になっているかを規定。
  • 傾斜度(Angularity):ある基準に対して指定された角度になっているかを規定。

位置公差(Location Tolerance)

穴や軸の位置の精度を管理する公差で、以下の種類があります。

  • 位置度(Position):穴や軸の位置のズレを許容範囲内に収める。
  • 同心度(Concentricity):円や円筒の中心が一致しているかを規定。
  • 対称度(Symmetry):基準面や軸に対して対象の形状が均等であるかを規定。
  • 線の輪郭度(Profile of a Line):断面ごとの形状誤差を規定。
  • 面の輪郭度(Profile of a Surface):3次元形状全体の誤差を規定。

振れ公差(Runout Tolerance)

部品が回転したときのブレを管理する公差で、以下の種類があります。

  • 円振れ(Circular Runout):回転時に円周上でどれだけブレがあるかを規定。
  • 全振れ(Total Runout):回転する部品全体のブレを規定。

幾何公差の表記方法

幾何公差は、図面上で「幾何公差の記号」「公差値」「データム(基準)」を組み合わせて記載されます。例えば、次のような形で表されます。

φ0.1ABC

これは「位置度公差 0.1mm」を示しており、基準A、B、Cを参照して測定することを意味します。

補助記号の例

  • Ⓜ(MMC: 最大実体公差):部品が最大寸法のときに公差を適用。
  • Ⓛ(LMC: 最小実体公差):部品が最小寸法のときに公差を適用。
  • Ⓜ(RFS: 公差固定):サイズに関係なく公差を一定にする。

幾何公差の活用例

  • 自動車部品の組み立て
    • エンジンのクランクシャフトやカムシャフトでは、振れ公差や平行度が重要。
    • 位置公差を適切に設定することで、精度を確保しつつ製造コストを削減。
  • 精密機器の製造
    • スマートフォンのカメラモジュールでは、レンズの位置度が重要。
    • 微細なズレでも撮影品質に影響を与えるため、高精度な幾何公差が求められる。
  • 航空機部品の設計
    • 航空機のエンジン部品は、振れ公差や同心度が重要。
    • 適切な幾何公差を設定することで、安全性と耐久性を確保。

まとめ

幾何公差は、機械設計や製造において非常に重要な役割を果たします。寸法公差だけでは管理できない形状や位置の精度を保証し、部品の機能を確保しながら、製造の自由度を向上させることができます。図面の読み書きや設計の際には、適切な幾何公差を設定し、製造コストと品質のバランスを考慮することが求められます。

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